ゲーム内ブック “Lusse’s travel”より
砂上の戦い
オアシスを擁する砂漠の二都市、ナルムとシルカ。大砂丘の放浪民がナルムのオアシスを占拠し、旧住民をシルカに追いやって以来、両都市間に広がる砂漠は紛争地帯となった。シルカの民は祖先の誇りを取り戻すために、ナルムの民は住処を守るために、世代をこえて彼らは戦い続ける。
砂漠の巨大廃艦
世界大戦時代の戦艦ジャガーノートは、シルカの技術者によって発掘された。ナルムを撃滅し、両民族の間で長く続いていた紛争に終止符を打つ決戦兵器として戦線に投入されたが致命打を与えるには至らず、ジャガーノートは再び砂の海に沈んだ。以来、砂にその巨大な半身を横たえ、いつ終わるとも知れぬ戦いの行く末を墓標のように静かに見守っている。戦火の上らぬ日には前時代の高度な技術遺産を求めて世界各地から遺跡荒らしの船が訪れる。キャラドン評議会の科学者は人類全体で平和利用するよう呼び掛けているが、アラシ連合の手練れは聞く耳を持たず、隙を見つけては現れ、着実にパーツを奪い取っていく。
フィヨルド北部
氷煌湾(グロウウォーターベイ)の北部には凍凛の荒野(チャタリングフィヨルド)と呼ばれる厳寒の大地が広がる。そこから流れ出した雪解け水が沿岸部で再び凍りつき、何年にも渡って永久凍土の氷を厚く、海岸線を複雑にしてきた。およそ三十年前、フィヨルド王国は美しくも禁断の地、ナーヴィンシュターク軍事基地を制圧し、大雪原(フィルンフェルド)平定に向けて領土を北にのばした。だが玉座から程遠いかの地にはグレガー王の威光は及ばず、強盗や海賊の巣窟と化している。氷煌(グロウウォーター)や北の湖(ノースレイク)方面から来る巡視船は軍事基地周辺を巡回航路に加えて警戒を強化しているが、無用心な冒険者や軽装の巡視船が襲撃される事件が後を絶たない。
アングレア共和国からの略奪者
アングレア共和国の領内には氷に閉ざされた前時代の高層建築物や軍事施設が当時の姿のまま残されている。掘り出した遺物を兵器に改造して戦線に投入しているため彼らの技術水準は高いが、いかんせん資源に乏しく、国民は総じて貧しい。飢餓にあえぐ国民を救うべく共和国の飛行船乗りは勇翼の物資調達団(ヴァリアントギャザラー)を組織し、食料と資源を求めてを求めて探索に乗り出した。彼らが狙うのは遠征中に見つけた寒村の備蓄品である。入り江の対岸に位置するハナトの集落では襲撃に備えて監視塔を設置し、昼夜を問わず警戒態勢を敷いている。ひとたび警報が発せられると防衛軍が招集されるのだ。その一翼を担うのが平和主義を掲げるキャラドン議会である。評議会はハナトへの不当な侵略に際し、防衛船団を派遣する誓約を交わしている。
待ち伏せの峡谷
イェシャ帝国から北上し、沿岸都市クシチャカに至る航路を通行する商人は多い。だが道中に広がる赤の峡谷(レッドキャニオン)は廃墟と枯れた水路を眼下にひびだらけの赤い崖間を飛ばねばならぬ悪路であり、積荷の強奪を狙うならず者にとって格好の待ち伏せ場所となっている。事実、不用心な船長が袋小路に追い込まれ、船に満載した貨物を根こそぎ奪われた話は枚挙に暇がない。同航路はイェシャ帝国とアングレア共和国を結ぶ最短航路でもある。周辺の集落は一様に貧しく、略奪物のおこぼれを分けあって糊口をしのいでいる。共和国の非情な略奪船団は警備が厳重な帝国の都市部には決して近づこうとせず、寂れた集落ばかりを標的にしている。
精錬所襲撃
フィヨルド王国を支える主要工業施設の一つ、黒の岩壁(ブラッククリフ)精錬所は東部山嶺(イースタンリッジ)で採掘された鉄鉱石を鋼や鉄に製錬し、国内の銃器職人や弾薬工場に供給している。現在は燃料と人手不足により全工場を一斉稼働させることができず、作業員たちは稼働中の一工場を残して他は全て完全に閉鎖し、工程に合わせて工場を切り替えるという方法で操業を続けている。用意周到な海賊団や略奪団は、作業員とともに移送される貴重な鉱石を狙って稼働中の工場の上空で待ち伏せており、鉢合わせたならず者同士で小競り合いが始まるこも稀ではない。
大雪原(フィルンフェルド)上空の戦い
アングレア共和国と大雪原(フィルンフェルド)本土を分断する雪解け水の入り江(メルティングファース)は、沿岸に氷山がそびえたち、流氷群が浮かぶ極寒の海域である。交易船や海賊船団など上空を行き来する飛行船は多く、大雪原(フィルンフェルド)西端の集落ハナトでは、開拓者の子孫たちが飢餓や略奪者に命を脅かされながらも交易船がもたらす物資を頼りに細々と暮らしている。 貧しい村の砦や小屋の上空で飛行船同士が戦いを繰り広げるとき、彼らにできるのは粗末な小屋の扉をしっかりと閉じ、嵐が過ぎ去るのを待つだけである。
荒涼の丘陵地(フレイドヒルズ)を制する者
イェシャ帝国領に隣接する荒涼の丘陵地(フレイドヒルズ)は一見、不毛の荒野だが、その地中は埋蔵資源が豊かなことで知られる。崩落した鉱山の奥深くには鉱脈のみならず、石油貯蔵施設や軍事格納庫まで秘匿されているという話だ。だが何より貴重なのは、帯水層の深きにいたり、清浄な水をなみなみと湛えた井戸であろう。西方の赤錆山脈(ラステッドレンジ)一帯は水源に乏しく、帝国は都市を拡張するためには国境を越えて飲料水を確保しに行かねばならない。一方、アラシ連合も帝国の密売人を介さず、乾き、砂埃の舞う故郷の砂漠に自ら水と資源をもたらすべく独自の航路開拓に乗り出した。
黄昏の決闘
戦うことでしか果たし得ぬ復讐がある。
相棒を選び、因縁の地で敵と対峙せよ。
全力で叩きのめし、幕を引け。
勇ある者に勝利の栄光あらんことを。
危険海域
氷雪に閉ざされた故郷、アングレア共和国を発ち、略奪船団の遠征は遥か東の黒の海峡(ブラックチャネル)に及ぶ。船団は両岸に凍凛の荒野(チャタリングフィヨルド)とキャラドン本島を臨むこの海峡周辺を根城とし、一方の沿岸集落を急襲して物資を奪っては電光石火の速さで他方の領空に逃げ込むという狡猾な手口で両勢力の警備船を撒いていた。執拗な襲撃に業を煮やしたフィヨルド王国の警備部隊はティース界隈の警戒を強化した。彼らは略奪船団を捕縛するためなら、もはや評議会の領空に侵入することも辞さない覚悟である。略奪品を満載した船団は帰国するべく西に進路をとった。評議会の沿岸都市アミダ界隈で、王国の警備隊が追いつくだろう。
迷宮都市
貧しい集落と丹念に耕された畑が広がるパリタス平原。そのなだらかな地平線を貫くように、崩れた塔と剝きだしの鉄骨が重なり合う歪(いびつ)な影がそびえ立つ。荒れ果てた今なお在りし日の威容をとどめる前時代の廃墟だが、戦後を久しくして生まれた我らの中に当時の名を知る者はなく、ただ迷宮と呼び、忌避するばかりである。しかしその曲がりくねり、瓦礫で閉ざされた路地の奥にあったものこそ、かのガブリエルが周囲の奇異の目に晒されながらも資材を掘り出し、独力で世界初の飛行船イカルス号を造り上げた秘密の工房なのだ。彼の痕跡もまた埃に埋もれ、見出すことは叶わない。だが今、この巨大遺跡は飛行船乗りにとって伝説の地であり、前時代の神秘の技術にまつわる噂やガブリエルの冒険譚に魅せられた者たちが続々と訪れている。
パリタスを揺るがす砲声
パリタス平原の貧しい集落に、巨大な廃墟が影を落とす。迷宮と呼ばれる前時代のその遺跡には莫大な財宝や失われた技術が眠っており、見つけた者はだれでも億万長者になれるという話だ。だが現実は厳しい。迷宮の入り組んだ路地を進めども宝どころか手がかりを見つけたという者はなく、ただ一つ彼らが得たものといえば、曲がり角で出くわした他の冒険者を相手に姑息でつまらない戦いを繰り広げ、勝利を収めたという称号とも名誉ともいえぬ武勇伝だけである。今日に至るまで迷宮で何かを見つけたという話はない。それでもなお宝探しに魅せられた者たちの挑戦は続く。
赤き墓地
イェシャ帝国の山岳地帯は埋蔵資源豊かなことで知られる。採掘物を盗みに侵入する者が後を絶たないが、殺戮兵器さながらに冷酷な帝国の追っ手から逃げきれる者は極わずかだ。とはいえ、宝を抱えて赤錆山脈(ラステッドレンジ)から逃げ果せた幸運の持ち主がいることも事実である。ある者は、山脈は人間の破壊衝動の源となる母胎であり、大地が人類に鉱石を与えるのは殺人兵器を作らせるためだという。資源競争を静観する東のキャラドン人は、母胎が飛行船を培養し、臍帯から切り離されて飛び立ったそれが戦いの果てに中空で四散し、金属片が再び大地に還っていく様を夢想しては万物流転の理に至る。 私も畏れずしていおう、それもこの世界の一つの真理なのだと。