商人ギルド – Mercantile Guild –
貧困から抜け出すことを夢見る者は多いが叶えられるのは一部の者だけである。貿易で一財産為した者はいずれ商人ギルドに目を付けられるだろう。それ即ち、ギルドの階級に組み込まれることを意味する。ギルドに所属しているのは世界でも指折りの商人や貿易商ばかりであり、物だけではなく知識や技術、移送や世界情勢など、いずれも貴重で有益な情報や手段を提供している。ギルドは莫大な資産を所有しているが、常に抜け目なく儲ける話を探し求めている。いわく、この世に値段の付けられないものはないそうだ。
混沌の時代に突入した世界に、大戦は気候の大変動を引き起こした。各地で国々が廃墟と化しただけではない。自然環境そのものが不安定になり、生活水準の悪化によって病が蔓延した。とりわけ被害が甚大であったのが、現在、商人ギルドが拠点をおくヴァストネス大陸辺境の地である。
ギルドの商人はいずれも冷静で、感情を見せることはない。簡素だが最上等の織物で作られた衣服をまとい、身を飾る幾ばくかの宝石は、闇夜に浮かぶ唯一つの星さながらに輝く。彼らは入念な調査のもと商談を進め、細心の注意を払って言葉を選ぶ。繁華街の物売りのように大声で客の気を引こうとするなど以ての外である。それは彼らが現在の地位を手に入れるまでの経緯、祖先が彼らのために払った多大な犠牲を、常に忘れないようにするためなのだ。かつてこの地で猛威を振るった赤死病(ブライト)は数千人もの命を奪った。当時の商人たちは外部の助けを求めて何度も使者を送りだしたが、極僅かな者が薬を携えて生還したのは、多くの住民が命を落とした後であった。助けはいつも後一歩というところで及ばず、つかんだと思えば風に流されていく。赤死病(ブライト)は灰塵(ダスト)と同じ風に乗って運ばれてきたと考えられている。
ギルドは莫大な財貨を所有しているが、世界に手に入れるべきものがあり、それを所有する誰かがいる限り、その欲が満たされることはない。
握りしめた掌より落つる物なし。
「答えはいつもあと一歩及ばぬところにある。」